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【全曲解説・前編】 ベートーヴェン ピアノソナタの難易度ランクを独自検証

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本ブログでピアノ協奏曲の難易度ランクの記事を作成したところ、現在1番のアクセス数となっております。調子に乗って、ベートーヴェンのピアノソナタの難易度も独自に検討してみることとし、全曲解説を載せました。解説は難しい曲の方があれこれ書きやすいので、今回は全32曲中から、難易度上位の20曲を取り上げます。

ランク付けは独自のもので、「雲の上」クラスを最上位とし、以下「上級上」「上級」「中級上」……と続けます(全音ピースのような区分けですが、あちらとの整合性は考えていません)。さらに各ランクをAAA, AA, Aのように3分割しました。「雲の上」ランクは単なる難曲というよりも、曲芸的な技術が要求されたり、楽器や手の構造に明らかに合致しないパッセージがあるなど、要するに「理不尽」「やりすぎ」と言える曲をピックアップします。

難易度ランク表

まずは難易度一覧を表にまとめましたので、ご覧下さい。今回は表の「中級上」までの曲についてご紹介します。

「中級」以下の曲については、「後編」の記事をご覧ください。

難易度一覧

曲順に難易度を確かめたい場合は、以下の表からどうぞ。

曲別難易度

それでは、難易度順に1曲ずつご紹介します。

雲の上ランク

SS

29番「ハンマークラヴィーア」B-dur Op.106

4楽章にそびえ立つ大規模なフーガが、この曲全体の難易度をプッシュしています(1, 2楽章だけならAAAランクあたりかな?)。音楽的な欲求が高すぎるゆえ、人間の手で処理するにはやや無理では?と思われる音型がしばしば。まさに「雲の上」ランクにぴったりです。

S

28番 A-dur Op.101

こちらの終楽章もフーガが展開され、例によって大変弾きにくいです。フーガ以外の部分も、ポジション移動が頻繁だったり重音の音階が要求されたりととにかく技巧的。行進曲風の2楽章はリズムが取りにくく(ベートーヴェンの付点はだいたい弾きにくいような……)、譜面の見た目以上の弾きづらさを感じると思います。

上級上ランク

AAA

32番 c-moll Op.111

ピアノソナタ最後の締めくくりにふさわしく、高度なポリフォニーを駆使して書かれていますが、29番(や28番)ほど入り組んだ展開を見せるわけではありません。その分ソナタとしての骨格がわかりやすく、かっちりと均整のとれた構成となっています。

AA

23番 「熱情」 f-moll Op.57

技巧面の課題は、だいたい「指がきちんと回るかどうか」に集約されていると思います。つい勢いにまかせて弾きたくなる作品ではありますが、1楽章再現部が拡大されて再現されるなど楽曲構成的に面白いポイントがいくつかあるので、曲全体をしっかり見渡す必要がありそうです。

30番 E-dur Op.109

ロマン派の作品以上に幻想的でピアニスティックな響きを追求した作品。激しい曲調の2楽章の難易度はそれほど高くありません(Bランクぐらい?)。3楽章のラスト、トリルを含む多声部の取り扱いで大変悩ましい部分があります。

A

21番 「ワルトシュタイン」 C-dur Op.53

この難易度は、コーダのグリッサンドを考慮していません。片手でグリッサンドを演奏するなら(それに固執する必要は全くないと思いますが)間違いなく「雲の上」ランクに入ります。調性は白鍵ばかりのハ長調で、それゆえ力を入れにくい手の形になるという難しさも。和声の観点では、1楽章提示部の第2主題への移行時に増6和音を経由して、遠隔調のホ長調に移るあざやかな転調テクニックが見所です。

上級ランク

BBB

7番 D-dur Op.10-3

初期ソナタの中でダントツの難易度となりましたが、1楽章の速度指示がPrestoでとても速いのが一番の原因です。これに加え、4や5の指で明瞭に弾きにくい音型も多々見受けられます。4楽章は「ロンド」でありながら無窮動ではなく、テンポの変化も多いという変わった楽曲です。こちらも、細かく技巧的なパッセージがあちこちに。

BB

14番 「月光」 cis-moll Op.27-2

ソナタアルバム2巻の収録曲の中では、この作品の難易度が一番高いと思われます。多くのピアノ学習者の憧れであり、今更説明不要の人気曲。この曲で要求されるテクニックは、他のベートーヴェンの作品に共通するものが多く、学習した分のリターンはとても大きいです。

22番 F-dur Op.54

ワルトシュタインと熱情の間に挟まれ、ほとんど注目を浴びない作品ですが、「人と選曲が被るのは絶対イヤ!」という方に密かにお勧めしたい曲です。演奏時間は12分ぐらいで手頃、ユーモラスで楽しげな雰囲気の1楽章と、6度の分散和音を駆使しながら爽やかに進んでいく2楽章との対比が見事です。

26番 「告別」 Es-dur Op.81a

華やかで演奏効果が高く、音型も定番のものが多いため、コンサートピースとしてお勧めしたい1曲です(一部弾きにくい重音がありますので、そこだけ要注意)。構成的に無駄がなく、ベートーヴェンソナタの王道、美味しいところを凝縮した作品だと思います。

B

31番 As-dur Op.110

他の後期ソナタと同様、フーガを備えています。ただし技巧的なフーガではなく、1つ1つ主題をかみしめるような深遠さを持っており、ぜひ多くの人に手に取っていただきたい楽曲です。2楽章はなぜか明治のカップアイスのCMで使われていました。謎の選曲ですが、ピアノ弾きの方で思わずニヤリとされた人も多いのでは?

中級上ランク

CCC

16番 G-dur Op.31-1

中間楽章がとても長いため、フルで取り上げられる機会はあまりないと思いますが、終楽章が魅力的な1曲。立体的に組み立てられており、ピアノもよく鳴るため音響効果抜群の作品です。手の大きさを要求される音型がやや多いでしょうか。

24番「テレーゼ」 Fis-dur Op.78

実は聞いた感じより難易度高め。2楽章は指になじみにくい音型が多く、特に「ラレレファファララレ……」と同一音が並ぶパッセージのリズム取りに苦労すると思います。調号のシャープが多く譜読みが面倒という事情もあるのか、曲の美しさの割りにピアノ愛好家にあまり愛されていない不遇の曲のような気も。

CC

2番 D-dur Op.2-2

華やかながら古典的なたたずまい。自由で伸びやかな音型は、モーツァルトからの影響があるでしょうか。音域の広いアルペジオなどきらびやかなパッセージが多めですが、悪目立ちしないよう粒を揃えて上品に弾く必要があります。1楽章展開部に、10度を含む非常に弾きにくいフレーズあり。

3番 C-dur Op.2-3

オクターブ奏法など、ピアノを派手に鳴らす快活な曲。よく考えて弾かないと、効き疲れする一本調子な演奏になりがちなのでご注意を。初期の作品ながら、減七和音や和声外音を使った陰影のある和声が印象的です。

8番 「悲愴」 c-moll Op.13

ピアノソナタというジャンルの革命児的な存在であり、音楽史の上でも非常に重要な作品です。やはり第1楽章の印象的なトレモロが肝で、クレッシェンドをかけて盛り上げなければいけないところ、力尽きてしまってスカスカの音になってしまう……ということがないよう、テクニックを磨いておく必要があります。

27番 e-moll Op.90

1楽章の伴奏音型に10度の音程を多く含んでおり、テンポも速く疲れます。悲愴ソナタの1楽章と同様、脱力奏法の取得が大事かも。
2楽章は弾きやすく、ソナタアルバム1巻あたりの学習段階で取り組めます。

C

6番 F-dur Op.10-2

曲の大部分はソナタアルバム1巻程度の難易度と思うのですが、終楽章、手首の回転によるオクターブや左手の音階パッセージが少し大変かも。いずれもツェルニー的王道フレーズですから、練習曲感覚で地道に取り組みましょう。

11番 B-dur Op.22

華やかなパッセージが多く大規模なソナタ。ただ凝ったテクニックが要求されるわけではなく、他のソナタでもみられるおなじみの音型が多めです。悲愴ソナタのようなオクターブの分散和音も頻繁に出てきますので、やはり脱力に気をつけて。

15番 「田園」 D-dur Op.28

タイトル通り牧歌的なソナタで、技巧的な難所は限定的です。4楽章コーダの約20小節を除けば1~2ランク易しめの評価に。全体的にシンプルなピアノ書法でありながら、全く間延びした印象を与えないのは不思議です(演奏者の構成力も問われると思います)。一部のオクターブパッセージは難しそうですが、曲調に合わせて落ち着いて弾けば特に問題はありません。

この記事は「後編」に続きます。

楽譜について

今回の記事は難易度上位の作品ということで、やはり後期の曲が多く挙がりました。原典版としてよく使われているヘンレ版は、15番までが1巻、16番以降は2巻に収録されています。

著作権切れとなった楽譜を多数扱うimslpでは、色々な楽譜をPDFで入手できます。例えば、熱情ソナタのページを見てみると、カゼッラ版やシュナーベル版など、演奏に対するヒントが細かく載せられた解釈版も色々アップロードされているようです。古い解釈版は、例えばバッハの装飾音が正しくないなど注意が必要な場合もありますが、うまく使えば非常に有益だと思います。

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